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薬剤性小腸傷害に胃潰瘍治療薬が有効 ~臨床への早期応用へ期待~

プレスリリースはこちら

150416.JPGこの研究発表は下記のメディアで紹介されました。 <(夕)は夕刊 ※はWeb版>
◆4/16 
 NHK「おはよう日本」、
 朝日新聞、読売新聞、日刊ゲンダイ、時事通信※
◆4/20
 読売新聞(東京版)

概要

 医学研究科 消化器内科学の渡邉俊雄(わたなべ としお)准教授らは、大阪医科大学、京都府立医科大学、佐賀大学との共同研究により、胃潰瘍治療薬であるレバミピドが低用量アスピリン製剤による小腸傷害に有効であることを明らかにしました。低用量アスピリン製剤は心筋梗塞や脳卒中の予防等に汎用されています。最近の研究で内服者の半数以上に小腸傷害が認められることが確認されていますが、有効な治療法は確立されていません。レバミピドは胃炎、胃潰瘍の治療薬として広く使用されている薬剤であり、安全性も確立されています。今回の研究成果は、薬剤性小腸傷害に対する有効な治療法の早期の臨床応用に繋がるものと期待されます。
 なお本研究は、米国の科学誌PLOS ONEに2015年4月15日(水)午後2時(米国東部時間)、日本時間では翌4月16日(木)午前4時に公開されます。

【発表雑誌】
 PLOS ONE
【 論文名 】
 A multicenter, randomized, double-blind, placebo-controlled trial of high-dose
 rebamipide treatment for low-dose aspirin-induced moderate-to-severe small
 intestinal damage
(低用量アスピリン起因性中等症~重症小腸傷害に対する高用量レバミピドの治癒促進
 作用に関する多施設共同ランダム化二重盲検プラセボ対照試験)
【 著者名 】
 
Toshio Watanabe, Toshihisa Takeuchi, Osamu Handa, Yasuhisa Sakata,
 Tetsuya Tanigawa, Masatsugu Shiba, Yuji Naito, Kazuhide Higuchi,
 Kazuma Fujimoto, Toshikazu Yoshikawa, Tetsuo Arakawa
【掲載URL】

 http://dx.plos.org/10.1371/journal.pone.0122330

研究の背景

 低用量アスピリン製剤(low-dose aspirin、以下LDA)は、心筋梗塞や脳梗塞等の血栓症の予防に使用されている抗血小板薬です。LDAの本邦での常用者は、人口の高齢化や生活習慣病の増加などにより年々増加しており、現在では500万人前後と推定されています。LDA療法における最も重要な合併症は消化管傷害であり、重症例では死の転機を取る場合もあります。この消化管傷害は主に胃や十二指腸等に発症しますが、最近の研究で小腸にも傷害が発生することが明らかになり、カプセル内視鏡を用いた検討ではLDA常用者では半数以上に小腸にビランや潰瘍などが認められたと報告されています。しかし、LDAによる小腸傷害の治療法は未だ確立されておらず、出血を伴う重症例ではLDAを中止せざるを得なくなりますが、その場合には血栓症の発症リスクが高まることが問題となっています。これまでに本傷害の予防や治療に対する薬剤の効果を検討した報告は極めて少なく、発症予防に関しては少数の報告はありますが、すべて健常ボランティアを対象とした試験であり、また傷害の治癒促進効果を検討したものでは、潰瘍やビランがなく粘膜の発赤のみしか認めなかった症例などの軽症例が試験対象者に多く含まれていました。すなわち、臨床的意義のある中等症から重症患者を対象とした試験はこれまで皆無でした。
 粘膜防御因子増強剤のレバミピドは本邦で広く使用されている胃炎、胃潰瘍の治療薬です。これまでの基礎的、臨床的な検討により、本剤がLDA起因性小腸傷害にも有効である可能性が示唆されていました。しかし、レバミピドは消化管粘膜に直接付着して作用するために6 mにもおよぶ小腸に対して効果を発揮するためには、常用量では不十分であり高用量を投与する必要があると考えられていました。

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 図1.国内でのLDAの処方件数の推移    図2.LDA起因性重症小腸潰瘍

研究の概要

 心筋梗塞や脳梗塞の予防目的でLDAを長期間服用している患者を対象にカプセル内視鏡を施行して、小腸に3個以上の粘膜欠損(ビランまたは潰瘍)を有する中等症から重症の小腸傷害患者を対象に、高用量レバミピドの有効性を評価する多施設共同ランダム化二重盲検比較試験を行いました。対象患者をプラセボ群とレバミピド群 (1日900 mg分3)の2群に無作為に分け、薬剤を8週間投与した後にカプセル内視鏡を施行して、投与前後での粘膜欠損数の変化および粘膜欠損の完全消失率を評価しました。
 粘膜欠損数はプラセボ群では薬剤投与前後で差はありませんでしたが、レバミピド群では投与後に有意に減少していました。また、粘膜欠損の完全消失率もレバミピド群がプラセボ群より約4倍高値でした。両群ともに薬剤投与による副作用の発症例は認めませんでした。

期待される効果

 LDAによる小腸傷害に対する薬剤の有効性を、世界ではじめて質の高い臨床試験で証明しました。特に、今回の検討では中等症以上の患者を対象にしたことから日常臨床に与えるインパクトは大きいと考えます。新薬の開発には膨大な費用と時間が必要ですが、レバミピドは20年以上にわたり胃炎、胃潰瘍の治療薬として広く使用されている安価な薬剤であり、安全性も確立されています。今回使用したレバミピドの用量は通常の3倍量でした。本剤の胃潰瘍に対する治験の際に3倍量のレバミピドが投与され安全性が検討されましたが、今回の我々の検討と同様に重篤な副作用は認めず、本剤は高用量でも安全であると考えられます。今回の研究成果により、レバミピドが薬剤性小腸傷害の治療薬として、早期に臨床応用されることが期待されます。

今後の展開

 今後は、最も重症であり臨床的にも重要であるLDA起因性出血性小腸潰瘍に対する高用量レバミピドの治療効果を前向き試験で評価したいと考えています。

研究発表の詳しい資料はこちらから